ルゥキーへのお題は
・顔を真っ赤にする
・名前を呼んで
・偶然の再会
・目を開ければ隣には君が
です。アンケートでみんなが見たいものを聞いてみましょう
shindanmaker.com/590587

 ※異聞IF、反英雄レオンハルトが真秩序回復戦争にて撃退されたルート

 英雄たちの刃は確かに皇帝邪紋に届いたが、その命を奪い取るには至らなかった。
 とはいえ竜の身体の中で数年に渡って膨れ上がり溜め込まれていた混沌を放出しきるほどの消耗に追い込まれたのは確かで、邪紋て構成されていると言っても過言ではなかった左腕が変色している。今やその身体は周囲の混沌を吸い寄せる渦の中心だ。
 「先に行け」
 どうせ死ぬことはできない。自身の混沌も削りに削ったせいで紛れもなく死の縁にいる竜ではあったが、己の体内にあるレオンハルトの混沌の総量も確かに減ってはいるのだ。後から気配を追うから、と、消失寸前の左脚を抑えながら声を絞り出す。
 この身、この魔境には翼がある。取り戻せば追うことは容易だろう。しかしそれに必要な時間が数分か、数時間かは分からぬ、気配を潜めるなら一人の方が都合がよいと、半ば無理矢理に二人を納得させて姿を見送る。その背が見えなくなると山陰に身を隠した竜は意識の限界を迎えた人知れず気を失った。呼吸はしていた。混沌の気配も途絶えなかった。頬に上る渦の邪紋は時間と共に色を取り戻し、体躯の左半分は形を取り戻し、これなら目覚めれば彼らを追うくらいの余裕はあるだろう――やがてその男の意識を呼び戻したのは風の音でも鳥の声でもなく、生命の気配であった。
 「……ん」
 視界に映るのは心配そうな赤の目。座ってこちらをじっと見ているのは。
 「キースクリフ……何故此処に」
 以前にもこんなことがあった、ような。黒の混沌に侵され続けた記憶は磨耗したように白く霞んでいるが、この滑らかな黒の髪はたとえそう望んだとしても忘れられるものではなかった。
 襲い続ける眠気と疲労。もう少し眠っていたいが目覚めなければならない。気配を追ってここまで来た彼を放っておくことはどこかで納得できない。
 傍にあった手を引き寄せて握り締めた。
 いつかのように禍々しくも雄々しい姿を見せることは今はまだ不可能で、そのせいで彼に幻滅させてしまうかもしれない。なんとかそれ以上の言葉を紡ごうとした男はしかし抗えず寝息を立てはじめた。ぼんやりと堕ちながらも彼にこのまま殺してもらえたならば幸せかもしれないとすら思いながら。
 夢すら見ない深い眠りの最中、握った手を胸元に引き寄せる姿はまるで竜が巣で珠を守るかのようだった。

 

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