ケヴィンへのお題は
・馬乗りになる
・懐かしい匂い
・同僚
・顔を隠す
です。アンケートでみんなが見たいものを聞いてみましょう
shindanmaker.com/590587


  「ユリシーズさん」
 酒に酔った邪紋使いに酒に酔った邪紋使いが馬乗りになる。端から見てこれがあまり褒められた絵面ではないのは確かだが、酔っ払い二人はまるで気にしていない様子だ。
 「おう、なんだ酔っ払い」
 「なんでもないですー」
 凱旋を口実に開かれたユリシーズの宴にひょっこり顔を出したが最後、酔っぱらうまで勢いよく飲まされたケヴィンである。酔いと眠気と、数年前に看取った「父」との記憶に誘われて、酔いつぶれた男たちが寝ている中ユリシーズを押し倒し、やがてその筋肉の上に酒の回った身体を放り出していた。
 クオーツィアに来て早いもので数年。王のジェイドと近い関係であるせいもあって人の目に晒されている中では長らく気を抜けなかったせいか、疲れたところに酔わされて正確な判断を下せなくなったケヴィンはそのまま首筋に顔を埋める。
 「おい、何してんだ気色悪い」
 「別に」
 幼い頃に自分を拾ってくれた「父」とユリシーズの姿が重なる。
 くらくらと意識は浮ついている。すん、と感覚に意識を集中させながら息を吸い込めば、酒の強烈な香りの中からどこか懐かしい、男の汗の匂いが漂う。
 「……親父」
 俺はおまえの親父じゃねえよと正論で黙らせるほどユリシーズは気の利かない男ではない。めんどくせぇなぁと思えどこうなるまで酔わせたのは彼自身だ。
 「どうしたよ」
 ユリシーズは乗っかられたままで空を見上げる。宥めるように青年の背中をぽんぽんと撫でながら、たまには甘やかしてやっても罪にはならないかとぼんやり考えていた。
 「親父と同じ、懐かしい匂い……」
 ケヴィンの言う「親父」が”暁の牙”の団長であったヴォルミスであることは知っている――ケヴィンはその男を愛し、愛しすぎて自分の手で殺した。いや、ケヴィン自身がそう説明したことは一度たりともなかったが、話を聞いたユリシーズはその言葉と表情から彼の説明しなかった真実がそうであったと察している。
 「……ったく」
 上に乗っているのが女だったら喜んでこのまま眠っていたかもしれないが、改めて考えるといくら若くて自分より小柄だとはいえ男にべったりと甘えられる趣味はない。酔いに誘われた眠気が呼気の音を寝息に変えるのもそう先のことでないと判断し、俺の上で寝るなと一言、無理にでも起こそうかと思った時。周囲で酔いつぶれていた男の一人が目を覚まし、こちらに気付いた。
 「ユリシーズ、誰だそれ」
 王の傍で戦う、剣そのものと言っても過言ではない男が酔って自分の上で寝そうだと教えてしまうのも可哀想な気がして、そこらに放ってあった上着を引き寄せて頭を隠してやる。
 「気にすんな。大きな犬さ」
 適当に誤魔化してやり過ごすと、その姿が闇に消えてから今の隙に完全に寝入ってしまった青年を腕に収めた。
 「……仕方のない野郎だ」
 そのまま剣を身体に内包した男をよいしょと抱えて立ち上がり、当然酔っているユリシーズ自身もどこか覚束ない足取りで自身の部屋へと姿を消した。



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