俺よりもこの男自身の方が動揺しているに違いない。恋とは異なる何らかの感情で繋げた身体で、或いはそれを許した心で、レオンハルトを失った今でさえも無意識に彼を求めているのだとしたら――レオンハルトが死んだ事実をこの男は知っている。一人の少女と刺し違えて逝った事実までは目覚めたこの男に俺が話したのだから、彼の混沌から解放されたこの男がそれを疑う余地などどこにもないはずだ。
 「ヴェルト」
 だから。
 俺を呼ぶ口を指で塞いで制した。解いた帯を目の上に幾重にも巻き付けるように被せてやる。
 「レオンハルトは、あなたをどう抱くんですか?」
 幸いそれほど身長に差はない。俺はレオンハルトの声も、その孤高な魂も持ち合わせてはいないが、ただ一時の慰めを求められているのならば俺が俺としてこの男を抱く必要などどこにもない。ならばこの男が望むように、きっとレオンハルトがそうしたように一晩振る舞ってやる方がいい。そう思った時にはこの決意のせいで余計な後悔を生むことになることを全く想像していなかった。
 「執拗で……」
 帯だけ解いたものの、脱がしはせずに肌に触れていく。それが腕や指先でさえもこの男は身動ぎして声を呑んでいた。どうやら雰囲気で呑まれるタイプらしい、もしくは、そうなるように扱われていたかだ。ただでさえ力の入りづらそうな身体が傾きかけるのを見て改めて寝かせ、龍の邪紋と腕で隠された表情を上から見下ろすと、視界を奪ったにもかかわらず俺の視線に気づいているのか逃げるように身体を横向きに逸らした。一体この男をレオンハルトはどう扱っていたというのか。
 「執拗で、それから?」
 「うっ」
 言いたくないなら言いたくなるように焦らす他ない。答えるまではこちらからは次の質問をしないと残酷に告げる代わりに、ただ露になっている身体に指を滑らせ続けるだけだ――それだけのことで随分と反応が良かった。元々物音や他人の気配や殺気というものに恐ろしいほどに敏感な男だと知ってはいたがそればかりでもないらしい。小さく跳ねるように震え続けるのを見ていると、この男が洗いざらい告白するまでこのまま待っているのも悪くない選択であるように思えた。
 「……それから」
 左右均等に筋肉がついているのは、この男が両方の手で槍を捌くからだろう。或いは翼を自在に操っているうちにこうなったのかもしれない。
 「時に乱暴で、優しいことも、あっ、た」
 要するにそれなりにこの男の反応を見ながら抱いていたということだろうか。よくもまあそこまで「手懐けた」ことだ。強引に従わせられているうちにこの男が落ちたのか、初めから相性が良かったのか。先程から一段と反応が良い腰に口づけてみると小さな喘ぎ声が漏れたのが聞こえたが、まだ話が足りない。もう少し具体的な話が出るまで、この男が話してしまう気にさせ続けなければならない。溺れさせるのはまだ先だ。
 「あとは、私を辱めるのが……好きで……」
 「辱めるとは?」
 袴らしきものの太腿の部分に開いている穴から手を差し込んで撫で回して続きを促す。
 「その」
 俺がどうしてこうまで具体的な話を求めているのか、この男は間違いなく察してはいない。まさか自分が言った通りに俺に弄ばれるとは露ほども思っていないだろう。
 「…………」
 羞恥に打ち震えながらも続けられる弱い声を聞き取るには、俺は自分の耳を彼の口元に近づけなければならなかった。熱を帯びた言葉が、ほんの僅かな空気だけを隔てて触れる。



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