秘書艦の瑞鳳と一晩を明かして本丸へと戻ると、最初に俺がしたのは審神者用の布団で悪びれもなく寝坊するじじいの両頬を引っ張ることだった。
 「朝からなんだ?はっはっは!」
 起きろじじい。昨日の不法侵入の弁明くらいは聞いてやること吝かない。
 「鶴の計らいだ。面白かっただろう」
 なんと、あろうことかいい歳こいたじじいがもう一人、このくだらない企てに加担していたことが明らかになった。
 鶴丸、隠れてないで出てこい!
 白い方のじじいも並べて座らせる。ただでさえ艦娘は乗組員と提督以外の男性には慣れていないのに、おまえらみたいなギラギラしたじじいが来たら彼女たちも驚くし鋼材と間違えられて食われても困る、と釘を刺しておいた、が――まあ無駄なのは分かっている。特にびっくりじじいは面倒なことになる前に現行犯で取り押さえねばなるまい。
 夜には俺はまた再び鎮守府へ戻る。毎日往復するのは面倒とはいえ、そこまでの道のりがあまり長くないのが救いか。このような立地では潮風で錆びるのではないかと心配したこともあったが、彼らは刀剣そのものというよりも付喪神だというし問題ないようだ。
 異動によりここで任務を全うできなくなった友人からこの本丸を引き継いで数日で、ここでの仕事とこの環境に驚くほど慣れてしまった。奴から頼まれた時は野郎との同居に興味がないという理由で断ったはずなのだが。
 「まあまあ、艦娘ほど手はかからないし可愛いもんだぞ。俺らが移動し終えたら本丸も空になるし、既に上には話は通してあるし。運営効率の問題でここを放置することはできないから、後任がいないと困るんだよ、な?」
 説得され嫌々ながら本丸に赴いた。初心者指南があって本当に助かったというものだ。業界用語も刀剣たちの名前も全く分からない状態で任務をこなすのは無理だろうと思ったが、刀剣男士たちには親切な人が多いし、基本的には鎮守府と似たようなシステムで運営できるらしい――違うのは刀剣には補給が不必要なことと住人が野郎ばかりであるということ、それから……最初のパートナーが自称文系の物騒な「妖怪首置いてけ」だということか。
 最初は小学校のようだった本丸も次第に老人ホーム化していった。キャンドルスティックカッターピ〇チュウなる太刀も現れたし、あの金ぴかな打刀なんて完全に聖闘〇星矢じゃないか。特に大きめの刀には自信満々……いや自信過剰な野郎が多いのだが、先日は被っている白い布にキノコを生やした男がいたので収穫しておいた。


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