もし俺が隊の天使である今剣と長話をしてそのまま二人で寝ることになっていたら、こやつはそのまま朝まで隠れているつもりだったのだろうか。
 「へぇへぇ、オレが悪かったよ……で、これは一体なんなんだ。だんまりってのはナシだぜ?」
 珍しく素直なのは一応反省しているからだろうか。その態度に免じて説明だけはしてやろう。
 「前に話した軍艦から飛ばされた艦載機というものだ……と、その前に。これが落ちていたあたりに小さな娘はいなかったか?」
 「小さな娘?」
 さあな、と言いながら和泉守兼定は艦載機を覗き込んでいる。とするとこれは座席なのか、と呟いたところにジッ、ザザザ、と無線のスピーカーから音が聞こえてきて驚いたのか――あろうことか彼は変な声をあげて艦載機を放り投げた。
 「馬鹿!」
 間一髪で艦載機の不正着陸を阻止してくれた今剣も無線の雑音に驚いている。家電くらいしか見たことのない彼らには無理もないか。
 「……機?二号機、聞こえているか?応答せよ。こちら一九二、応答せよ」
 無線から艦娘の声が聞こえてきた。
 「うわああああっ!」
 落ち着けイズミン、その情けない声は向こうへ聞こえているぞ。悲鳴はあげなかったものの怯えて腰にしがみついてきた今剣の頭を撫でながら艦載機を受け取った。
 「誰だ?二号機、救援は必要か」
 聞いたことのない男声の悲鳴に反応して無線の向こうの声は少し焦りの色を帯びていた。黙っていろよと目で制してその声に応じる。
 「俺だ。一九二、こちらナカトミ。応答せよ」
 「……ナカトミ?」
 艦載機の傍に俺がいると知って那智の声はすぐに落ち着いた。流石の冷静さである、このくらいの落ち着きを見習うがいい和泉マン。そんなふうだから頻繁に金刀装を割っては雅マンに怒られるのだ。
 「ナカトミだ。猫狩りがどうとかでそちらに入れなくてさ……もしや心配をかけてしまったか?」
 「いや、無事ならいいんだ。貴様の言う通り猫の数が減る様子がなくて困っている。六時間以内の帰還に間に合うよう努力している」
 今から六時間というと二十五時くらいだろうか。
 「そうだな。こちらもしばらく落ち着かないだろう。貴様もそちらで休んだほうがいいかと思うが、どうする?」
 「そうしよう。一一三にも伝えておいてくれ」
 瑞鳳と眠れないのはなかなか寂しいものだが、一晩野郎共と過ごしたところで俺に危険が迫る……ということはないだろう。というよりそう思いたい。同性愛に否定的な考えはないが寝込みを襲われて不倫、は御免だ。
 「一一三は今、総力戦してるっぽい。アウトレンジ決めてるっぽい!」
 夕立の高い声が後ろから割って入った。成程、それで秘書艦の瑞鳳の艦載機ではなく那智の水偵が連絡に飛ばされたのか。砲弾が飛び交い足音が駆け回る辺りの音を聞いている限りだがかなり大体的な駆除戦闘を行っていることは間違いない。
 頭が痛くなった。本格的な作戦を前に弾薬と燃料の消費が痛い。衝突や味方への誤射がない限り鋼材の消費はないだろうし、相手が猫ならば艦載機が撃墜されることもないだろうからやはりボーキサイトの消費がないであろうということが救いか。毎日供給される資源と遠征で持ち帰った資源でその穴が埋められることを願うしかない。溜息は那智にも聞こえていたようで「今度飲もうじゃないか」と慰められた。
 「詳しい話は二号機の乗組員にでも聞いてくれ」
 了解、と答えると無線は切れてしまった。恐らく那智も化物猫の退治に忙しいのであろう――その僅かな暇に連絡を取ろうとしてくれたことを感謝しつつ、最初に聞こえたであろう声がヤクザ名刀のものであったことを申し訳なく思った。二人はといえばすっかり落ち着いて好奇心に目を輝かせている。
 「……和泉守兼定」
 久し振りにまともに呼ばれて驚いたようで背筋がぴんと伸びていた。神妙な面持ちで何を言われるのかおとなしく待っている――珍しい。
 「艦載機の乗組員を探してきてくれ。小さいから踏み潰すなよ、なお拒否権は無い」
 「ふざけんな……っ!」


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