結局その夜のうちに妖精さんは見つからなかった。事情を聞くこともできず――そもそもどうしているのか心配である。和泉守兼定が自分一人で探すようなことをするはずもなかったし、多くの刀剣男士たちが捜索に協力してくれたのだが数時間で打ち切った。総出で探されていてそれに気づかず隠れているような彼女でもあるまい。
 部屋の襖と障子を少し開け、もし彼女が俺を見つけたら入ってこられるようにして眠った。風は冷たく少し寒かったが眠れないほどのものでもない。普段は鎮守府で瑞鳳と眠っているので、独り寝は、久し振りだった。
 布団の暖かさに包まれて目を覚ましたとき部屋の状況は明らかにおかしかった。目に映るこの光景は何かのメッセージなのか。
 「……ん」
 隣にあった顔の頬をむにむにと伸ばす。よく見ると布団も広かった。布団の両隣に布団が敷かれていて更にその隣に布団。布団の海が広がりそこに野郎がびっしりと並んで眠っている。どういうことだ。
 「おい」
 鶴丸国永、年寄りのくせに寝起きが悪い。何故おまえがここにいる、夜這いなのか、これはどういうことなのか説明せよ鶴丸。
 反対側には加州清光。奥には藤四郎兄弟……と人の上で寝るなじじい!
 「おはよう。はっはっは」
 俺は刀剣のやさしさに包まれていたのか。血生臭い夢から醒めて安らぎを覚える。どういうわけか艦娘たちが薙刀に狩られる夢――深海棲艦ではなく、普段なら刀剣たちが戦っている敵の姿。雪積もる冷たい地面。彼女らの砲撃も敢え無し。沈むことすら叶わず、地面に崩れて折り重なる姿。
 忘れたい悪夢ほど覚えている例にもれず、鮮明に、その地獄のような光景を覚えている。朝から最悪の気分だ。殺人兵器であるとはいえ清らかな空気を纏う彼らのせいでは無論ないだろう。
 平安時代からやってきた布団の上のじじいを降ろした。重しがなくなったことで頭が冴えてきたのか、それとも単に夢のことから思考が離れたからなのか、今更ながら周りの状況を把握する気になった。めいめい布団を持ち寄って雑魚寝、意外にも紛れ込んでいる一期一振は短刀たちの御守だろうな。この並び順からいうと鶴爺か加州清光が最初に来たと考えられるのだがおまえらは何をやっているんだ。
 「……驚いたか?」
 「ああ、おまえに狙われていたなんて驚いたよ」
 「んっ、殺す気はないぞ」
 まだ若干寝ぼけているようだったので帯で手足を縛ってやった。ざまあみろ。早い時間だったので寝床を抜け出し忍び足で部屋を出る。目を覚まして慌てる一期一振と見なかった振りをする大和守安定。
 じじいがぴたぴたと後ろをついてくる。
 「何か用か三日月?」
 「俺に用があるように見えるかな?」
 まさかあるとは思っていない。かといってじじいの期待に応えられるようなことをするつもりもない。お手洗いにくらい一人で行かせてはくれまいか。

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