「内容は?」
 その声がいつもと変わりなかったので僕は電話で伝えられた内容を一つずつ説明した。送られてきた説明書きにある通りに説明していくと本部からの電話の言葉とほとんど同じになったから、きっとあの電話もこれを読み上げただけだったのだろうね。一通り伝えて員信の声を待っていると石切丸がじいっと僕を見つめてきた。よく分からない緊張が走る。
 「それ、報酬は出るのか?」
 「は?」
 員信は何を言っているのだろう。君には風流の影すらないのか!質問に答えるために紙面に目を走らせると確かに報酬の項目を見つけることができた。一言文句でも言おうかと思ったけれど、石切丸がいま部隊から抜けたら隊の引率者がいなくなるのも確かだった。それを考えるなら員信の無粋な発言の理由も解せるかもしれない。
 「恐らくはね。なにとは書いていないけれど」
 「うーん……本部からとはいえ怪しいな、それ」
 余程急ぎでこの書面を作ったか、初めから報酬を出す気がないかのどちらかだろうね。員信が直接「出せ」と言えば本部も折れると思うけれど、どうだろう。彼は少し考えていたけれど、最終的には「石切丸が無事に帰る保証があるならいい」と呟いて自分を納得させていたようだった。石切丸の意思を問われたので答えようとすると、紙に「最近していないから疼く」と書いた物を見せつけられたのでその通り読んだ。その紙、いつ書いていたんだい石切丸。
 「……行かせてやろう」
 苦笑交じりの員信の声。どんな顔をしているか想像がついてしまった。そのくらいには彼と時間を過ごしてきたらしい、そう思うと出会ったばかりの頃が懐かしいとすら感じられるね。では応じると回答しておくよ、と確認をする。
 「頼んだよ……それから一筆、文系のおまえに書いてもらいたいんだが。流石に無言は失礼だろう」
 「ふむ、一筆だね。僕は文系だからね、そういうのは得意なんだ。任せてくれ」
 よし、と石切丸の喜びの声があった。多分員信にも聞こえているだろう。はしゃぐというほどではないが、これほど喜んでいる彼を見るのは僕も初めてで、思わずくすりと笑ってしまったよ。それを隣で見ている僕も実は先方への手紙を代わりに書けるとなって心躍らせている。
 「本領発揮、頼んだよ」
 手紙に添える梅の枝を折ってもいいかと聞いたら員信は快諾してくれた。さっきは風流を解さない男だなんて失礼なことを思ったけれど、やはり員信は僕の主として最低限の風流さは持ち合わせてくれているようだ。僕は抜かりなく雅に、完全な手紙をしたためてそれに応えるとしよう。
 「頼んだぞ?」
 「恐悦、至極」
 気持ちを落ち着けるためにお茶を啜った。少しだけ冷めていたがそれでも美味しかったから、後で是非石切丸に淹れ方のコツをご教授願いたいものだね。文系の僕より美味しいお茶を淹れるなんて素晴らしいよ。感心しながら味わっていたら茶器を置く音が聞こえていたようで、随分寛いでるな、と員信に笑われてしまった。
 「それじゃあ俺はこっちの仕事に戻るよ。留守の間もよろしくな、歌仙」
 「いつものことだろう?君も程々に」
 安心して留守を任されるのが僕の仕事だからね。員信もたまには僕が近侍であることを誇るといいよ。連絡を切る時に「本当に大丈夫か」なんて言われようものなら僕は多分怒るだろう。彼はそれをちゃんと分かっていてくれるから、特にそれ以上何か言う事もなく無線を切った。
 「良かったじゃないか石切丸」
 員信が置いた場所に元のように艦載機を戻して、湯呑みを両手で覆うように持ってみる。指先が温く滑らかな表面に当たるとそれさえも心地よかった。この湯呑みについて員信は何も言わないし、銘のあるものではないけれど、恐らくある程度は高価な品のように見える。元々ここにあった湯呑みはこれではなかったから彼が用意したものだろう。
 「久し振りなんだろう?楽しんでくるといいよ」
 「はは、感謝する。それでは君は今から手紙を書くのかな。行った先の審神者に変な遠慮をされないように、くれぐれもお願いするよ」
 「勿論さ。文系の僕に任せてくれ」
 石切丸の表情はそれだけで厄落としになりそうなものだった。ひょっとすると僕もそんな顔をしているのかもしれない。だとすると少し恥ずかしい気もするけれど、石切丸が部屋を離れる前に美味しいお茶の淹れ方を教わることにした。



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